「異族兄弟」序文 作 パク・ファナム
耳を聾する気象情報の音声。東アジア各地を無造作に点綴していく。(由来などない郷愁で胸が痛むだろう)冷えた無人の渡り廊下のようなその音声はやがて遠ざかり(鉄路を真すぐ遠ざかる列車のように克明に小さく小さくなる)ほとんど立ち消えるのかと思えたが(その鉄路の消失点からとぼとぼと誰かがやってくる)その硬い音声は”ちんちん”の左の掌にスイーッと収斂されていった。生成り色の包帯がちんちんの半裸であろう上半身、頭部までもぐるぐる覆っている。
弱法師のように力無くよたよたと花道を舞台に向け(街路を団地に向け)ちんちんは歩く。右の手ひとつで赤ん坊を抱く要領で量ばった茶色の紙袋を、左の手は兵士の敬礼のように側頭部で鋭く曲がっているが、場内に響き渡っていたあのラジオ放送の音声こそがその掌にある矩形のトランジスタラジオから発せられていたのだった。
いまその音声は融かしたハンダ線のようにちんちんの左耳に流れ込んでいる。
舞台の上は煙ったように見づらい。中央にマヤ文明のピラミッドを一番に連想させる段々が設えられている。その段々の天板には場違いにも食卓がきちんと椅子を四脚従え、あった。